脳血管性認知症のアパシーについて
脳血管性認知症の症状には「アパシー」というものがあります。
アパシーとは、「無気力」「無関心」の状態です。
近年の研究で、脳血管性認知症の意欲低下は、うつ状態ではなく「アパシー」のほうが強いことが分かってきました。
今回は、脳血管性認知症のアパシーについてお伝えします。
脳血管性認知症のアパシーの原因
脳卒中後の意欲低下については、長年うつ状態であると考えられていました。
しかし近年の研究で、意欲低下は「アパシー」であり、アパシーにより脳血管性認知症が進行することが分かってきました。
脳血管性認知症を進行させてしまうアパシーになりやすいのは、大脳の白質という部分の障害によります。
脳の「大脳」の表面は、灰白質という組織で出来ています。
灰白質は「大脳皮質」とも呼ばれる、厚さ1.5~4㎜の部分です。
灰白質は、思考・触覚と運動・視覚・聴覚など、人間らしい働きを司る部分です。
灰白質の下の大部分は、「大脳白質」という組織です。
大脳白質は、灰白質に情報を伝える神経ネットワークが構成されています。
脳卒中でマヒや言語障害などが出るのは、灰白質(大脳皮質)が障害されるためです。
脳血管性認知症を進行させてしまうアパシーになりやすいのは、ラクナ型脳梗塞です。
ラクナ型脳梗塞とは、動脈硬化で脳の細い血管が無数に詰まってしまう病気です。
ラクナ型脳梗塞では、明らかなマヒは無いのにアパシーになりやすいことが分かってきました。
脳血管性認知症のうつ状態とアパシーの違いは、「本人が困っているか」です。
うつ状態では、脳血管性認知症の人も介護者も「出来ないこと」や「これからの生活」などに困ったり、悩んだりします。
アパシーでは、介護者は困りますが脳血管性認知症の本人は困りません。
脳血管性認知症のアパシーは、ほとんどのことに「無関心」なのです。
脳血管性認知症のアパシーの対策
以前は、脳血管性認知症の意欲低下は「うつ状態」と考えられていました。
しかし、抗うつ薬はあまり効果が無いことも知られていました。
抗うつ薬は「セロトニン」という神経伝達物質に作用します。
セロトニンは、アパシーには効果がありません。
脳血管性認知症のアパシーの改善が期待できるのは、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンという神経伝達物質に作用する薬です。
脳血管性認知症のアパシーの対策
脳血管性認知症のアパシーの人は、自分から何かをしようとは考えません。
介護者が無理のない日課を決めて、促す必要があります。
脳血管性認知症のアパシーの人には、「○○をしましょう」と直接的に促しましょう。
なぜ必要かなどと長々と説明すると、イライラして反発する場合があります。
脳血管性認知症のアパシーに効果が期待できる薬は、「アマンタジン塩酸塩」「ドロキシドパ」「ロピニロール塩酸塩」「釣藤散(ちょうとうさん)」などです。
いわゆる「やる気スイッチ」を刺激する作用があります。
しかし、興奮、振るえ、血圧上昇などの副作用があるので、慎重に投与しなければいけません。
脳血管性認知症の人が「何もやりたがらない」アパシーの状態を放っておくと、認知症が進行してしまいます。
出来そうなことを促すと、素直に協力してくれることが多いものです。
介護保険サービスなどを利用して、なるべく刺激を与えましょう。