認知症と痴呆症について
認知症と痴呆症という言葉の違いは何でしょうか?
かつて、私が介護の仕事を始めた頃は、痴呆症という用語を何の違和感もなく使用していました。
有名な「源氏物語」にも、「老いしらへる(痴る)」という表現があります。
この表現は、痴呆という言葉を連想します。
新聞やニュースには、日々「認知症」という言葉が出てきます。
そして、「認知症を知り地域をつくる10カ年」のキャンペーンや「認知症サポーターキャラバン事業」の展開により、認知症に対する正しい知識の普及が進んでいます。
今では日本の国民のほとんどが認知症という用語を知っています。
それぐらい、認知症という言葉が浸透している証拠でしょう。
ここでは、認知症と痴呆症についてご説明します。
認知症が痴呆症と呼ばれていた理由は?
以前、「認知症」は「痴呆症」と呼ばれていました。
どうして、痴呆症ではなく認知症という呼び方に変わったのか、その違いについてご説明します。
2004年に厚生労働省は、痴呆に替わる用語の検討を行い、新しく認知症という正式な用語を定めました。
- 痴呆が侮蔑感を感じさせる表現であること
- 痴呆の実態を正確に表していないこと
- 早期発見・早期診断などの取り組みの支障になること
上記が用語の変更に至った問題点です。
確かに「痴呆」という言葉には愚かもの、ばかものという意味が含まれるため、ご本人やご家族にとって良い気持ちにはならない用語です。
「痴呆症」と「認知症」に症状としての違いはありません。
しかし、痴呆症が認知症という用語に変更になったことよりも大切なのは、差別や偏見をなくそうという意識です。
言葉の言い換えだけではなく、私たちの意識が変わらなくてはいけないのです。
認知症とアルツハイマー
「認知症」と「アルツハイマー」は同じ病気ではないの?という質問を受けることがあります。
答えは、認知症を引き起こす主な病気のひとつがアルツハイマーです。
認知症の方の約50%を占めるのが、アルツハイマー病なので、認知症といえばアルツハイマー型認知症を指すことが多いのが事実です。
しかし、厳密にいえばアルツハイマー病は、認知症の原因の疾患のひとつです。
脳のなかの大脳皮質連合野や海馬領域にβアミロイドというたんぱく質のごみなどが蓄積し、脳の細胞が壊れるとアルツハイマー病が発症します。
これは、脳の変性疾患といい、脳の細胞が壊れることで脳が委縮します。
認知症の変性疾患は、アルツハイマー病以外にも、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがこれにあたります。
脳の血管が詰まって一部の細胞が壊れる脳血管性認知症やクロイトフェルツ・ヤコブ病などの感染症、アルコール認知症なども認知症の原因となる病気です。
認知症は原因の疾患により、症状や対応方法が異なります。
認知症の早期発見、早期受診・診断・治療が非常に重要視されているのは、認知症の原因の疾患により、治療方法も異なってくるからです。
また、認知症のような症状がでても、治る病気があります。
アルツハイマー病は、早期であるほど薬で進行を遅らせることが可能です。
認知症はどうせ治らないから、と思わずに、早めに医療機関にかかってくださいね。